認知・行動療法(Cognitive and Behavioral Therapy;CBT)
- 当施設においてカウンセリングの際に主要な技法として用いています。
- 内外の研究でうつ病や不安症などに治療効果が認められ、日本においても保険適用による治療が認められています。厚生労働省e-ヘルスネット・認知行動療法
- 自分を知り、自分を制御する方法により,「自分で自分を科学する」姿勢が身につきます。
- 開始の際は方法、原理などを詳細にご説明していきます。
- 基本的には標準的な治療手順に則って体系的に進めていきますが、もちろん、クライエントさんの変化、理解度、やりやすさなどを考慮しながら、協調して進めていきます。
- 効果の出方は様々で、問題にもよりますが、うつ病や不安障害などの標準的な方法では10数回のセッションで効果が見込めます。
- 心理検査などを併用することで効果を確かめながら実施していきます。(いわゆる「悩み」相談の場合は心理検査は不要なことも多いです。)
- 問題によっては数回で、場合によっては初回で解決して終了するケースもあります。その一方、より長期のセッションを要する場合もあります。
- いずれにしましても、長期的な展望に立って、「その場しのぎ」から脱却することが返って問題の早期解決を可能にします。
認知行動療法は方法をマニュアル化することで、質の均一化をはかっていますが、セラピストの力量によって効果に差が出ることはあり得ます。一定の力量を備えたセラピストのセッションを受けることがクライエントさんにとっての利益につながります。
当所代表カウンセラーの小村は精神科において行動療法を用いた集団治療(デイケア)を実践していましたので、行動的アプローチが患者さんの活動を活性化し、社会適応力が高まることを肌で実感してきました。
また、平成15年から日本認知・行動療法学会に所属し、研鑽を重ねるとともに、日本の認知行動療法における草分け的存在である故・松原秀樹先生(元・九州大学医学部心療内科心理士、元日本赤十字広島看護大学教授、西日本メンタルヘルスセンター総合相談室室長)に師事し、およそ10年間で個人カウンセリング事例について100例以上の症例のスーパーバイズを受けてきました。現在も学会での研究発表や研修への参加を通じて、さらに磨きをかけています。
認知・行動療法とは(詳しい説明)
認知行動療法とは、「認知」の仕組みにもとづいて、クライエントの認知の概念化を行い、そこに歪みがあればそれを修正して、認知の歪みに基づく不適応を改善するための心理療法です。
それと同時に、問題を行動上の問題として客観的にとらえ、学習の原理に基づいた行動の修正・再学習を行うことで新たな行動を形成し、問題行動の軽減を狙う治療法です。
認知の修正は新たな行動を起こし、新たな行動が形成されるとそれに伴って認知変容も生じることから、認知と行動は相互作用的に機能していると考えられます。
そのため、もともと行動療法と認知療法として始まった両者が、現在は「認知行動療法」として体系化されています。
認知行動療法(以下、CBT)は治療原理や治療効果にエビデンスがある心理療法として、うつや不安障害を対象に広く普及してきています。
CBTの基礎理論
基礎の枠組みを理解することで応用範囲が広がり、様々なケースに対応することができます。
CBTは学習心理学と認知心理学という現代心理学の基礎によって成り立っているため、CBTを理解するためにはこの両者をまず理解することが必要です。
行動の原理
学習心理学においては、学習の原理として、主に古典的条件付け,オペラント条件づけ,モデリングについての理解を必要とします。
学習の原理は、強化、消去、弱化を基本原理として、人の行動が維持される仕組みを説明します。
言い換えると、現在の人の行動には、その人が今まで行ってきた学習が反映されています。何らかの問題となる行動が続いている場合も、その問題行動が学習され、維持されている仕組みがあるはずなので、行動の改善のためにその(問題)行動がどのように維持されているのか解明していきます。
行動のアセスメント:行動分析
それを「行動分析」とよび、CBTにおける行動面からのアプローチに不可欠なプロセスです。行動分析は、ある「行動;B」における「きっかけ」(先行条件;A)、そして行動の「結果;C」がどのようなものであるか、という環境的要因である三項随伴性について分析することが基本です。
近年は、「確立操作;E」や「ルール支配行動」(長期的な「結果」;D)などの比較的新しい概念を加えてより詳細な分析を行うようになってきています。
確立操作やルール支配行動は人の「言語(言葉)」と深い関係があり、人の行動に対してより現実的で効果的な介入を可能にする概念として注目されています。
また、言語は人の内的処理過程と関連が深いため、行動における人の「認知」との接点でもあります。
CBTは認知と行動の両面からのアプローチなので、行動の原理も押さえつつ、認知情報処理過程という,思考につながる神経生理学的側面も含めた内的なプロセスについても説明が必要です。
認知のしくみ
人の認知の仕組みについては、認知心理学や認知科学の発展により人の内的処理過程をコンピュータになぞらえて「情報処理過程」として記述することで、急速に研究が進みました。
つまり、認知の情報処理過程を理解することができれば、認知の歪みについても理解が進み、より効果的に認知変容を促すことができると考えられます。
そこで、人の認知情報処理過程について、ボトムアップ処理とトップダウン処理の相互作用的プロセスとして説明することで、いわゆる認知の歪みがどのようにして生じるのか説明しました。
認知の歪みとは、先行する経験である「記憶」に含まれるある種の信念、「スキーマ」によってもたらされる情報処理の偏りであるといえます。
こうしたプロセスはもちろん無意識的な過程であり、我々はその結果である「思考」を意識化できるだけです。
しかし、自分のスキーマや認知のプロセスを知ることで、それが非機能的な行動や陰性感情とつながっており、結果として生活の質を低くしていることが理解できるなら、認知をマニュアルで操作し、変化を起こせる可能性も出てきます。
こうした理解の上に、CBTに用意されている様々なツールを活用していくことで具体的な介入を行います。
認知と行動のセルフモニタリング
認知的アプローチとしては,「定式化」という方法によって,状況や思考、感情、行動などについてセルフモニタリングをするということがポイントです。
モニタリング結果は一定のフォーマットに沿って記述することが推奨されます。
CBTは「書く治療法」といってもよいくらい、心身に生じる様々な状態や現象を記録・記述し,言語的刺激として確認できるようにすることで、自分自身の状態について客観視できるようにする、ということを最も大切な方法として位置づけています。
クライエントとセラピストは、記述した内容を客観的に確認することで、その矛盾(偏り)に気づき、何をどのように修正したらよいのかという手がかりを得るのと同時に、外在化されたクライエントの問題に対して協働して取り組むことができます。
したがって,CBTはクライエント自身の動機づけが無ければ成り立たず,セラピストはクライエントの気づきを促して問題の整理を支援し、動機づけ面接法などを併用しながら支持的に後押しをすることが求められます。
そこで、クライエントのニーズに沿った適切なアセスメントと,関係性を重視した深みのある支援を行うことで,今までの問題を抱えた自分とは違う新しい自分に気づいていくプロセスを学んでもらうという視点が,CBTの効果を高めることにつながっていくものと考えられます。
性格は変えられるか?
心理学的には人の認知や行動を決める,いわゆる「性格」は,生物学的な遺伝的な素因のほか、環境要因による学習,生活する社会環境において求められる役割や行動様式など,多面的な要因が複雑に絡み合った結果であると考えられています。
人は自分の内的な体験として生じる「感情」や「思考」に基づいて行動を行い,それを意識することで,自分の「性格」を認識することができます。
「生まれつき」によって成り立っている生物学的な領域に対しては未知数ですが,少なくとも,学習によって成り立っている心理的な領域に関しては,心理療法やカウンセリングによって変容を促す余地があります。
いいかえると,「性格」を固定的なものととらえるのではなく,心の中に生じる「感情」や「思考」を制御する方法を学び,意識の力を強化することができれば,「性格」を変える・・・とまでは言えませんが,性格をマネジメントするという事は可能になるのかもしれません。
性格を構成する要素に関与することで,性格をマネジメントするのが認知行動療法です。
例えば,気分の落ち込み(うつ)や不安感、やるべきことを先送りにしてしまうことなども、「性格」という固定的なものとしてとらえるのではなく,過去の学習に由来する行動パターンや「思いこみ」という流動的なものととらえてみます。
そこで、それらを捉えなおし,「学び直し」をすることで、いままで自分に悩みをもたらしていた行動・思考・感情のパターンを適正化することができるようになる,と考えるのが認知行動療法になります。
ただ,それは,もともとの「性格」ありき,のことになります。考え方や捉え方,行動の仕方が180度変わるわけではなく,それまでの「性格」に気づいて,それを意識的に修正することができる,ということにすぎません。
元々の性格がなくなるわけではないのね。
それには,前述のように「学習」というプロセスが必要ですので,ある程度の期間,ご自身での能動的な取り組みが必要です。
その取り組みを効果的に進めるために,具体的な「ツール(治療技法)」が多数考案されており、それらのツールをを効果的に用いることが改善につながります。
認知行動療法の実際
認知行動療法は、上記のとおり,自分の心の状態を客観的にモニタリング・把握し、効果が実証されている方法やツールをもちいて自分で思考や気分を改善していくためのセルフ・コントロール法であり、「治療」というよりは「学習」といえます。
現在、幣所では従来の認知行動療法に加え「第三世代」と呼ばれる新たな認知行動療法(ACT、マインドフルネス)を導入し、クライエントさんの意思(方向性)を尊重し、クライエントさんの力を最大限に生かすことで、認知行動療法をより効果的に実施すべく鋭意努力しています。
認知行動療法の技法
「技法」について説明していますが、概要を簡略化して説明してあるだけです。セルフ・ヘルプ本を参考にすることで一定の効果も期待できますが,専門家の見立てと指導の元で行うことを推奨いたします。
厚生労働省からも患者さん用のマニュアルが配布されています。
第一世代の認知行動療法
第二世代の認知行動療法
第三世代の認知行動療法
認知行動療法の特色
認知行動療法の進め方
こちらもお読みください「カウンセリングとは」