子どもの心を開くかかわり方
(本稿は平成21年に広島市内のある小学校のPTA講演会にてお話させていただいた内容の抜粋です。)
カウンセリングから感じること
実際カウンセラーとしてカウンセリングの現場で見聞することから考えると、本当にいろいろなご家庭の姿があるなぁと感じます。それはよい、悪いというような単純な問題ではなくて、一人一人に個性があるのと同じように、家庭にも尊重すべき個別性があるという意味です。そして正直なところ、現場にかかわればかかわるほど、個人が持つ個性も、家庭の個別性もいかに理解しようと努めてもとうてい理解しきれるものではないということを感じます。
個性豊かな子どもたち
これは、私が現場でお子さんご本人や保護者の方々とお話しさせて頂く中で、特に注意している点でもあります。つまり、一人の子ども、一人の母親、一人の父親、いずれも全て異なった存在であり、私はその人たちの心のほんの一部にかろうじて共感できるに過ぎませんし、その個人個人が家族という集団の中でどのようにふるまって、どのように家庭というシステムを形作っているのか、かろうじて推測することができるに過ぎないということです。実に学校には様々な個性を持った子どもたちが学び、それを支える様々な家庭の姿があるわけです。
気持ちを受け止めることと伝えること
そうした中で、子どもと日々かかわっていく過程で心がけることがいくつかあります。それは、受け止めるという姿勢と、次に、伝えるという姿勢です。
受け止めること
まず、受け止めるということですが、理解することが難しい他人の心を理解できないまでも「受け止め」そして「承認する」ということです。子どもを一人の存在として受け止めて、承認するということです。例えば「いたずらをするという行為自体は許せないが、いたずらをしてしまう子ども自身は受け入れる」ということです。そして、子どもの感じていること、考えていることを無条件に共感してあげるということとも関係します。あたかも、同じように考え、同じように感じることです。
伝えること
そして、伝えるということですが、受け止めることはしっかりとできているのに、意外と、伝えるということがおろそかになっていることが多くみられます。というのは、言葉への過度な信仰があるのかもしれません。人間は言語能力が非常に発達していますので、言葉に頼りすぎるところがあるようですが、実際は、対人間のコミュニケーションはもう少し複雑なようです。
さて、そこで少しご質問をしてみたいと思います。
- 皆様はご家庭でお子さんと関わるとき、どのような言葉で話しかけられるでしょうか?
- その時、どのような口調、声のトーン、テンポはどうでしょうか?
- どのような表情をなさっているでしょうか?
- どのような体の姿勢をとっておられるでしょうか?
唐突な質問ですが、少し振り返ってみて頂きたいと思います。
その時のごきげんで変わるかもしれません。不愉快な出来事の後ではきっと口調も強めになって言葉もきつくなるのではないでしょうか。
メラビアンの法則
少し難しい言葉を使いますが、人はメッセージを受け取る際、言葉の内容という言語的なメッセージよりも、表情や口調、体の動きなど、言葉ではない情報から受け取る非言語メッセージが93%を占めていて、言葉の内容そのものからはわずか7%しか受け取らないという傾向があります(メラビアンの法則)。もちろん、状況により必ずしもこの原則が適用されるわけではありませんが、人と関わるときにとても大切になる原則です。言語機能が十分に発達していない子どもの場合はなおさらです。
言葉と態度が裏腹だと…?
例えば、楽しい話を仏頂面で聴いていたらどうでしょう?話している方は少し気分を害するかもしれません。直接話しているときには相手がうなずいていてくれるだけで安心するものですが、電話で相手の人が相づちや返事をしてくれなかったらとても不安になると思います。それは電話では相手の動きが見えないからですね。受話器をもってうなずいていても見えませんから。
つまり、話をしているときには、いかに、目に見えるふるまいがメッセージを伝えるために大切かということです。言葉とふるまいが一致しているときには人はとても安心でき、メッセージを素直に聞けるものです。一方、言葉とふるまいが不一致な場合、受け取る方は混乱して不安を感じ、メッセージは伝わりにくくなります。こうしたメッセージをダブル・メッセージと呼びます。そして伝える側にその意図はなくても、受け取る方は、言葉ではなく「ふるまい」の方をメッセージとして受け取ってしまうということです。
言い換えると、本音は言葉より態度に表れるということでしょうか。ですから、子どもと話をするときには、可能な限り、言葉と振る舞いを一致させることで、子どもは親の発するメッセージを受け取りやすくなるでしょう。
今後に向けて
近年の研究によると、人の性格の40%程度は遺伝によるものだそうです。子供は白紙で生まれてくるわけではなく、したがって、どんなにうまくかかわって育てても、自分の思い通りに育ってくれることはないわけです。うまくいかなくて当たり前です。
個人が何を考え、何に悩んでいるのか、それを知ることはとても難しいというのは先にお話しした通りです。しかしながら、悩んでいる、苦しんでいる、悲しんでいるというような「気持ち」を受け止めて共感することで、子どもに安心して「話せる場と時間」を保証しておくことはできるはずです。分からないからこそ、話せる環境を保証しておくこと。そして、そうした場があることで、子どもには自分の気持ちに気づく力が育まれ、自分の気持ちを上手に表現して伝えていく力が身に付いていくことになるはずです。是非、子どもたちに、体を使ったメッセージで関わってみてください。きっと何かが変わるはずです。