ストレスマネジメントでセルフケア
メンタルヘルスの予防を早期発見という観点から見ていくとき,どのような視点で見ていったらいいかということと,ストレスマネジメントにおけるセルフケアを促すための実践上の留意点についてご説明しています。
コロナ禍というストレッサーに翻弄されている今だからこそ,大切なことのように思います。
多少,小村の主観や経験による私見なども含まれますが,いくつかのポイントでまとめていますので,ご参考になりましたら幸いです。
ストレスマネジメント・オンデマンドとしてyou tubeでも解説しています。
ストレスについて理解しておきましょう
ストレッサーの理解
ストレッサーには大別して,
という二つの要因があります。自分が対処すべき問題は何か、できるだけ具体的に理解するようにしましょう。
ライフ・イベント
ライフイベントは人生における重要な出来事であり、「いつものことがいつも通りに行かない」という環境的な変化を生じさせます。
そのため,新しい環境になじむために多大なエネルギーが消費され,気づかないうちに疲労が蓄積し,場合によってはうつ病や適応障害などのストレス性の障害を引き起こすこともあります。
ライフイベントによるストレスは,生じた時のインパクトが大きいため,短期的なリフレッシュや休息ではなかなか落ち着かず,長引く性質がありますので,長期的な注意が必要です。
デイリーハッスルズ
それに対してデイリーハッスルズは、労働や日常生活につきものの色々ないらだち事です。ライフイベントと比べると,インパクトは小さいため,日々のこまめなリフレッシュで短期間のうちに解消できるものです。
ただ,解消がうまくいかずに積み重なっていくと,ライフイベントと同じように何らかのストレス性の障害を引き起こす可能性もあります。
ストレス・コントロールのポイント
ライフイベントによってストレス価が高い中でデイリーハッスルの解消がうまくいかないと,必然的にそれだけストレス性の障害が起こる可能性が高まります。
この両者についての気づきをもつことがストレス・コントロールに重要です。
したがって,
以上2点が,セルフケアのうえでの重要なポイントになります。
ストレッサーによる不調のサイン ”ストレス反応” の理解
さて,ストレッサーにうまく対処できていないと,前述のように、心身に何らかの影響,すなわち「ストレス反応」が出てきます。
一過性で済めば問題ないですが,たまって慢性化してしまうと,ストレス反応から,ストレス性の障害が起こる可能性がありますので,早めの対処が必要です。
一般に,ストレス反応には下図のような状態が知られています。
上記のような様々な反応がありますが,実際の反応の出方には個人差があり,ストレッサーの自覚とともに,自らに特有のストレスのたまり具合、すなわち「ストレスサイン」に気づけるかどうか,が重要となります。
ストレスへの気づき
ストレスサインについては,会社勤めの方は「ストレスチェック」が客観的な指標の一つになりますが,心身の状態は日々変わりうるわけなので,自分で自分の状態をセルフチェックできるようにしておくことが大切です。
上記の表の「一次的反応」は,普段よく起こりうるものですが,それがある程度の強度で持続していると,やがて二次的反応(高ストレス状態)に発展するかもしれません。
二次的反応で手を打たないとストレス関連疾患を発症することになり,そうなると,長期の治療や休職が必要になります。
現実的なサインとしては,以下のような具体的な例がわかりやすいかもしれません。
もっとも,こうした行動上のサインは,自分だけでなく周囲からも分かりやすいサインである反面,気づいたときには結構,問題が進行してしまっていることも多いです。
したがって,予防の側面からは、もう少し早い段階で自分のストレスを把握することができたら対処が間に合います。
より早期のサイン(一次的反応)に気づくには,次の「不眠」と「疲労」の状態をチェックして,日々,睡眠の状態と疲労の状態をモニタリングしておくことが役に立つでしょう
より早期に気づくために・・・不眠と疲労のチェック
不眠のチェック・ポイント
上3つが一つ以上、週に3日以上ある場合,要注意。(※「不眠症」であるかどうかは医師による診察が必要です。心配な場合は受診を考えましょう。)。
時間が不規則でも,質の良い睡眠が確保できていて,日中に眠気で困らないのであればOKと言えます。次に,「疲労」についてチェックしましょう。疲労は上記の不眠による睡眠状態の悪さとも関連し,ストレスの蓄積ととても関係が深いです。
疲労のチェックポイント
以下の4つのポイント(山田,2018)は自覚しやすく,実際的な指標として使いやすいです。
※右の書籍より引用しました。ストレス対策としても大変参考になりました。
もう少し詳しくご説明すると,
良質な睡眠は疲労全般に効果的です。チェックポイントに当てはまったら,まず睡眠習慣をみなおし,日々実践することがとても大切なポイントと言えます(後述)。
睡眠については,時間が不規則でも,質の良い睡眠が確保できていて,日中に眠気で困らないのであればOKと言えます。
また,脈拍や呼吸については,元気な時にあらかじめ基準を測っておき,日々のチェックを習慣にするとよいです。
自分自身で「疲れ」を素直に自覚できるのであればセルフケアもできますが,「疲労」が過度になると、周りが「疲れてない?」と心配してくれていても,「大丈夫です」とか「疲れてません」とか,場合によっては「元気です」とか、疲れに対してむしろ鈍感になることがあります。
上記のような分かりやすい指標により,疲労感と疲労を区別する視点が持てるようにすることが大切です。
その際,例えば,「今の状況でどのくらいもちそうか」とか,「このままの状態が続いたらどうなりそうか」というように考えるようにすると,今の状況をよりはっきり認識する手助けになります。
セルフケアのポイント
上記のように,「睡眠」と「疲労」の視点に限定して考えることで自身のストレスが把握しやすいと思います。そして,その二つの視点での対処について考えてみましょう。
まずは睡眠について,睡眠衛生の視点でのセルフケアのポイントです。
良質な睡眠はなにより,休息・回復をもたらします。ストレス反応はある意味「疲れ」ですので,ケアとしてはまずは睡眠の質を高める視点が重要です。
良質な睡眠のための3つのコツ
質の良い睡眠をとれることがストレスによる疲労を回復させ,メンタルヘルスの基盤となります。睡眠は一日の終わりではなく,スタートという気持ちで,無理せず,できるところから始めてみましょう。
「スタンフォード式最高の睡眠(西野,2017)」
良質な睡眠をとるための指南書です。睡眠は健康のバロメーター。日ごろの健康対策,ストレス対策として大変参考になりました。
※ なお,睡眠時無呼吸やその他の疾患による不眠もありますので,眠れているようでも,日中の眠気が強い,意欲が出ない,疲れが取れない,などの状態が続くときは,医師の受診を考えましょう。
気晴らし・楽しみごとの推奨
繰り返しになりますが,ストレス状態とは、前述の様々な要因が重なって起こる「心身の疲労」ですので、疲れたときに睡眠を主体としたメンテナンスをすることで休息・回復を図ることがまずは重要です。
休息についてはこちらでも書いています。
それと共に、「心のエネルギー」を充電することがもう一つの重要なポイントです。
例えば,車がきちんと整備されていても、電源・燃料といったエネルギーがなければ動くことができません。日々ストレスに耐えて、元気に働き続けられるのも、メンテナンスと同時にエネルギーの補給が行われればこそです。
睡眠は回復・修復であり,気晴らしや楽しみごとは「こころのエネルギーの補充」です。疲労を回復させつつ,エネルギーを補充することがより前向きなセルフケアになります。
「喜び」や「楽しみ」「満足感」といったポジティブな感情を得られる活動であれば、個々人の状況に応じて様々な工夫が可能です。
「気晴らし・楽しみごと」をもち,プライベートの生活を活性化する工夫を大切にしましょう。
こうした楽しみごとは、「快感情」をもたらすことで,心理的にも生理的にもストレスを軽減する効果があり,デイリーハッスルに対して、デイリーアップリフツと呼ばれます。
ストレスの修飾要因
ストレスには、個人の特性によって、それを強めたり弱めたりする修飾要因があります。一般的には性格と、ソーシャル・サポート(有形無形の社会的支援)があげられます。
ストレスを強める性格とは
ストレスをためやすい人には、下記のように、mustを主体とする頑固な考え方が見られます。
それはそれで、得難い貴重な特徴といえます。ただ、能力はあるのに従来のこの性格のために要領よくやることが出来ずに、苦労を抱え込んでしまう、生き方が不器用なタイプといえるでしょう。
上記の表はデビッド・バーンズ著「いやな気分よさようなら」を参考にして作成しました。ロングセラーとなっている,うつを解消するための認知療法のセルフヘルプ本です。
上記のような考え方,いわゆる「認知のゆがみ」を再考し,柔軟な思考法を学ぶことで,気分を改善する方法が紹介されています。
楽天的な人はストレスを感じにくいという傾向があることからも,簡単なことではありませんが、考え方の幅を少し広げてみるのも一案です。
大事なのは,考え方やとらえ方には様々なパターンがあることに気づき、いろいろなパターンに切り替えてみることで,気分が変わることを体験することです。
自分の思考のクセに気付こう
ソーシャル・サポートの有効活用
周りの人たちからの有形無形の支援(手助け)は,ストレスを弱める要因として極めて重要です。特に重要なのは,手助けが実際には行われなくても,助けてくれる人の存在があり,いざとなったら助けてもらえる,という期待があるだけでストレスは減少することが知られています。
決して悩みや問題を一人で抱えることなく,ストレス対処法の選択肢の一つとして常に頭に置いておいていただきたいと思います。
終わりに
今回のご説明はいくつかの切り口でご紹介しましたが,他にも多彩な考え方ができます。
マインドフルネスももちろん効果的です。
ストレッサーは多様であり,また個人の特性も多様であるため,対策はケースバイケースになりますが,共通して必要な視点は,ストレスによる影響は決して「なまけ」や「弱さ」などではなく,現在の環境(仕事)に適応しようとして頑張っている結果です。
そこで立ち止まることなくさらにがんばり続けてしまうと,結果として病に至る可能性が高くなります。
是非,ご自身の初期のストレスサインに気づきを向けて,
「相談」という選択肢を実践していただきたいと思います。
お読みいただきありがとうございました。