睡眠に悩むときに見直してみたいこと

良質な睡眠のために

はじめに

良質な睡眠は毎日の活動、元気の源ですが、時として眠れなくなったり、途中で目が覚めたりといった、不眠症とか睡眠障害といった状態になることがあります。

メンタルヘルスと睡眠はとても深い関係があり,心の病の主症状には常に睡眠障害がつきまといます。それは大人のうつでも子どもの問題でも同じです。ストレスを抱えた人がゲームやお酒などの依存的行動に耽溺して睡眠不足になる、というのも広義の睡眠障害と言っていいのではないでしょうか。

薬による治療で速やかに改善することも多いですが、、睡眠と不眠のメカニズムを理解して、少しだけ工夫して生活習慣を見直してみるだけで、改善される場合もあります。

ただ、睡眠は健康のバロメーターともいえ、不眠は様々な病の症状、兆候として現れることも多いので、下記のように長く続く場合は、医師による診察を受けることも大切です。

また,表立って不調が目立たなくとも、熟眠感がなく、夜頻繁に目が覚めたり、早めに目が覚めることが多い方の場合、カウンセリングやストレス対処などの心のケアをすることで睡眠の質が上がり、メンタル不調の予防にもつながると考えられます。

良質な睡眠のために

まずは,睡眠のことをよく知って、睡眠のための良い習慣を築きましょう。

「不眠」への気づき

不眠の種類

一般に睡眠障害(不眠症)と言っても、大きく3つに区別されます。

  1. 入眠障害(寝つきが悪い、床に就いてから30分以上眠れない)
  2. 中途覚醒・睡眠維持困難(途中で何度も目が覚め、なかなか寝付けなくなる)
  3. 早朝覚醒(本来起きる時間より早く目が覚め、その後は寝付けない)

正確な診断については心療内科等で診断基準にもとづき判断されますが、該当する症状が一定期間(一週間に3夜以上、3か月以上)続き、大きい苦痛感や生活上の支障があることが目安となります(DSM-5日本語版,2014を参考)。

実際、寝床に入っても寝付けない時の辛さは私自身も経験がありますので、実感できます。この辛さが長期にわたって続くのは本当に苦痛だと思います。

ただ、多くの方々は、①の入眠障害をいわゆる不眠症としてお考えの場合が多いのではないでしょうか。そのため、②や③があっても不眠症とはとらえず、眠りが足らない状態が続くことにより、次第に健康状態が悪化していくこともあり得ます。

①②③いずれの症状も、心理的な苦悩(ストレス)と結びついた緊張状態との関係が深いのですが環境の変化など外的な要因による一過性の症状の場合は、時間経過によって自然とよくなったり、緊張の緩和のための行動上の処方を実施することで、改善が期待できるケースもあります。

特に、入眠障害は単に生活習慣を見直すだけで比較的容易に改善することも見込めますが、一方、加齢や内科的な問題を含む場合も多くみられますし、うつ病等の疾患を含む持続的で根深い問題をはらんでいることもありますので、続いている場合は医療機関での診断や治療をまず考える方がよいでしょう。

睡眠にはリズムがある

睡眠は、生体のリズムによってコントロールされています。

  • サーカディアン・リズム(概日リズム;24時間周期)
  • サーカセミディアン・リズム(半日リズム:12時間周期)
  • ウルトラディアン・リズム(2時間ごとのリズム)

この3種類のリズムに従って、睡眠と覚醒がコントロールされています。最も大事なのは、サーカディアン・リズムです。いわゆる睡眠障害はこのリズムが乱れる身体的反応による場合もあります。

つまり,睡眠と覚醒のリズムをいかに見直していくか,ということが良質な睡眠のための第一歩になります。

不眠が起こるときに見直してみる生活習慣

  • 就床前6時間以内にカフェインを摂取していないか。
  • 日中、身体を動かすことが少なくないか。
  • 就床前に激しい運動をしていないか。
  • 就床前に熱いお風呂に入っていないか。
  • 床に就く時間が早すぎないか。(床に就くのは眠くなってから。)
  • 寝床で仕事をしたり、難しい本を読んでいたりしていないか。(寝床では寝るかセックス以外のことはしない。)

改善できる点は?快適睡眠のための工夫

【睡眠のリズムに関係】
  • 無理に早く寝ない。早く寝るためには早く起きる。
  • 起きたら、朝日をしっかり浴びる(体内時計のリセット)。
  • お昼に30分以下の短い昼寝をする。
  • 休日の寝坊は「睡眠負債(寝不足)」を返したり「寝だめ」にある程度は有効だが、睡眠のリズムを崩さないように気を付ける。(休日に寝坊すると月曜日が辛くなる)
【睡眠の深さに関係】
  • 夕方以降、カフェインは控えめに。
  • 就寝前にはぬるめのお風呂(湯冷めにより体温が下がり、睡眠が深くなる)
  • 就寝2~3時間前に軽い運動を(運動後体温が下がり、睡眠が深くなる)
  • コップ一杯の水(体温を下げる)。トイレ覚醒を恐れて飲まないのは逆効果。
【就寝前の儀式】

寝ることも毎日の一大事ととらえ、時間をかけて寝る準備をする

  • 寝る前にはお気に入りの詩集を読む。
  • 音楽を聴く(静かな音楽を低音量で)
  • 寝る30分前からアロマを焚いて気持ちを落ち着ける。
  • 蛍光灯・LEDの強い光を落として間接照明にする。テレビ、パソコン、スマートフォンなども見ないようにして刺激を避ける。
  • 刺激の少ないハーブティーを飲む。
  • その他リラックスを促すことなら何でも。

いずれも刺激によって興奮することを避け、心身をリラックスさせることが目的です。

ストレス・マネジメントと睡眠

生活習慣を改善しても、仕事上のことなど普段から強いストレスをかかえ、心身が緊張した状態が持続していることもよくみられます。

日常的に心身が過度な緊張状態にあると、脳が覚醒状態を維持しようとして眠れないという状態が起こります。そういうとき、身体が常に戦闘状態にあり、意識では休息する必要があると思ってはいても、身体の無意識的なレベルでそれを許してくれない状態になっているのです。

脳の恒常的な緊張状態は、身体の緊張状態と密接な関係があります。脳は、常に身体の状態をモニターしていて、身体が緊張していると脳幹毛様体賦活系に緊張状態のシグナルが送られ、脳は身体の緊張を維持する必要があると判断します。

そうすると、肩こり、または全身各所にコリが生じ、それが原因となって気持ちのよい睡眠を阻害することがあります。

一般に、「闘争ー逃走反応」と言われますが、いうなれば、身体が緊張状態を維持するということを条件付けられている状態になっています。このようなときは、恒常的な緊張を生み出しているストレッサー(仕事や苦悩をもたらす原因)を排除するのが最も近道なわけですが、現実的にはそうも行かない場合がほとんどです。

そのため、次に打つ手としては、効果的なストレス・マネジメントによってストレッサーによって生じるストレス反応すなわち、脳と身体の緊張のレベルを少しでも下げるための工夫をすることです。

すなわち、まず、「反応」である身体の緊張をとってしまうことで、緊張状態のシグナルをなくし、脳にリラックス状態のシグナルを送ることで、平穏な脳の働きを回復することができます。

そのために有効なのが、いわゆる「リラクゼーション法」と呼ばれる技法です。種類は多様ですが、「呼吸法」「筋弛緩法」「自律訓練法」などが一般的なところです。

特に、筋弛緩法は筋肉の緊張を緩めることにより、毛様体への賦活信号を減少させるため、きわめて即効性があります。人によっては、実施した直後に著しい眠気を訴えられる方もいらっしゃいます。生活習慣の改善と、身体的なリラクゼーションを習慣的に行うことで、不眠はかなり改善されます。

心理的要因について

心配事や悩みがあるとなかなか寝付けないことがあります。

一過性の場合と慢性の場合がありますが、慢性の時は、同じ考えが頭の中を駆けめぐり(思考の反芻)、常に心が緊張している状態になっているものです。

これに対処するためには、身体的リラクゼーションと平行して、カウンセリング(認知行動療法)による心理的な面でのアプローチも必要になります。

心配や悩みを弱める心の扱い方を身につけていくわけですが、その際、マインドフルネスやコンパッションなど、健康志向的な方法が効果を発揮します。前向きに取り組むことが必要なので、少しの勇気と持続的な取り組みが必要になります。

参考文献

内山他 2007 「睡眠障害の対応と治療ガイドライン」 じほう

久保木・井上(監修)2003 「睡眠障害診療マニュアル」 ライフ・サイエンス

堀忠雄 2000 「快適睡眠のすすめ」 岩波新書