クライエント中心療法

カウンセリング

積極的傾聴(Active Listening)

ロージャズのクライエント中心療法の考え方に従い,気持ち、感じ方を無条件に受け入れて、批判的・評価的・説教的な態度を捨て去り、一貫して平等・自由・寛容・受容的な暖かさといった雰囲気でお話を聴いていきます。

必要に応じて質問はしますが、あなたの話の流れを崩さず、流れに沿って話を聴き、カウンセラーが望む方向に話を誘導したり、直接的にアドバイスしたりはしません。

話すことの喜びを感じて頂けるように聴いていきます。

基本的に、初回のカウンセリングはこの積極的傾聴によって行います。認知行動療法への導入として、お話を十分にお聴きしていきますが、内容によっては認知行動療法には導入しないこともあります。

傾聴は「話を聴く」ことそのものに意義があり、ひたすら聴くカウンセラーに話すことで、あなたの気持ちが自然に整理され、それだけで悩みの解決に結びつく事もあります。また、悩みの解決に向け、具体的に行動しようという意識に芽生え、エネルギーを感じるようにもなります

とかく誤解されがちなのですが、決してただ「聴いている」だけではありません。

あなたの内面にある思いに寄り添いながら、自己治癒への力を引き出すことを念頭に、「能動性を持って」聴いています。

決してあなたを「一人」にすることはありません。

ただ「安心」を得るために

うつ病や不安症の方はとかく、自己否定的や飛躍した考えによる「思い込み」にとらわれがちなので、それをただひたすら聴くだけですと、その思い込みをますます強めてしまうということにもなりかねません。

人は、口に出して話したことによって、考えをより確信してしまうのです。

だから、カウンセラーは受容と共感によってあなたの思いや気持ちを受け入れるとともに、あなたの気持ちの奥底にある、そこから脱したいという気持ちにフォーカスして、あなたの「自己実現への力」を引き出すように、会話を進めていきます。

「悩み」はある意味、「揺らぎ」です。その揺らぎを修正して、「軸」を再発見することで、元気になれます。それには、あなたは、あなた自身の心を深く見つめなおす必要がありますが、それは、ある意味とてもつらくしんどいことです。

カウンセラーはそうした苦悩と向き合うあなたに「安心」してもらうことが唯一の役割といえます。

それでこそ、認知行動療法のような「学ぶ」姿勢が重視される方法に意味が出るのです。

クライエント中心療法の背景理論

ここからは,クライエント中心療法の詳細について,

畠瀬稔編訳 1972(第8刷) ロージャズ全集6 人間関係論 岩崎学術出版社

第一部・第一章を参考に,来談者中心療法について解説しています。

クライエント中心療法とは

ロジャーズの「クライエント中心療法」は,いわゆる社会的不適応に対するカウンセリング技法の一つである.

その療法に対するロジャーズの出発点は,「どのようにしたらこの人を治療し,なおし,変化させることが出来るのか?」という疑問であった.

それは,彼自身の経験と発見の中から,次のように発展した.「どのようにしたら,私はこの人が自己の人格的成長のために役立つような関係をつくることが出来るであろうか?」

この問いは,単に,カウンセリングを必要とするクライエントに対してのみならず,ほとんどの人の人間関係に適用できることが分かってきた.なぜなら,我々は皆,同じ人間関係に属しているからである.

そこで,ロジャーズが論じる次の仮説を考えることで,人間関係が人の変化に与える影響を考えてみたい.

援助的関係に関する基本的仮説

「もし私が,①あるタイプの関係を設定することができるなら,その相手の人は,その関係を使用して,自分の中に②成長の方向に向かう能力を見いだすであろう.その結果,③変化のプロセスと人格的発達が起こるであろう.」

畠瀬稔編訳 1972(第8刷) ロージャズ全集6 人間関係論
① あるタイプの関係とは?
ある関係において,純粋になるほどその関係は援助的である.

純粋であるということは,内在するいろいろな感情,態度を,喜んで自分の言葉,行動で表現することである.

▶ 関係の真実味(reality) ▶ 内在する純粋の真実性の表明

それは,私は私をごまかすことなく,わき上がる感情を受け入れている状態といえる.

これによって,相手も自らに内在する真実性をうまく追求することができる.

お互いが純粋に表現し合うことによって,ごまかしのない関係,すなわち,純粋な関係ができ,これが援助的な意味を持つ.

「受容」

私がその人を受容し,好きになればなるほど,彼が役立てることができる関係を生み出すことができる.

無条件に,価値ある人間,すなわち彼の条件,行動,感情がどのようなものであれ,一人の価値ある人間として,その人に暖かい配慮を持つということ.

また,彼を一人の独立した人間として尊敬し,彼の感情,態度の変動性を全て受容し,認めること. このようにして,全てが受容されると,その関係の中で暖かさと安定感を感ずるようになり,援助的関係を促進する.

共感的理解

クライエントがその瞬間において感じた感情と言葉を,そのままの形で共感したい-と感ずるとき,この関係は意味がある.

「あなた方が本当に,自分の隠されたところや,こころの奥深く埋もれている知られたくない経験を,自由に探ってみたいと思うのは,あなた方にとっては恐ろしかったり,弱かったり,感傷的であったり,奇妙であったりするように思える感情や考え方を,私が理解したときである.」

畠瀬稔編訳 1972(第8刷) ロージャズ全集6 人間関係論

カウンセラーが,クライエントの感情を,クライエントと同じように見,それらと,そのときのクライエントを受容したとき,彼は自己探索の自由を得る.

すなわち,自己探索は,クライエントにとっては恐ろしい問題であるが,カウンセラーが共感的理解を持って接するとき,あらゆる評価とは無関係に自由に行える.

クライエントの自己探索=関係の真実味(純粋性)+共感的理解

               と考えることができるかもしれない.

「このように,私が援助的であると思う関係は,私の側の一種の透明さ-その関係においては,私の真の感情が表されている-ならびに,この他人を,自分自身の権利を持った価値のある独立した人間として受容すること,かつ,彼の私的な世界を私が,彼の目を通して見ることができるような,深い共感的理解をすることによって特徴づけられる.このような条件がつくられたとき,私はクライエントの道連れ(companion)となり,彼とともにかつては恐ろしかった自己探索の道を歩むのである.そして彼は,今ではそのことを自由にしてみたいという気になっているのである.」

畠瀬稔編訳 1972(第8刷) ロージャズ全集6 人間関係論

と,ロジャースは,彼の援助的関係の条件を述べ,クライエントは必ず変化し,建設的な人格的発達が起こるとしている.

② 変化への動機づけ(①の結果生じるもの)

クライエントがカウンセラーに上のような条件を認めるとき,「個人はこの関係を利用して成長へと向かう能力を,自己の中に見いだすことができる」のである.

こうしたことからロジャースは,経験を積むにつれ,「全ての個人は彼の内に,明確ではないにせよ,成長していきたいという隠れた能力と傾向をもっている」と結論した.

クライエントにとって必要なことは,この傾向を解き放つための適当な心理的環境が整えられることである.

そのような環境においてクライエントは,彼のパーソナリティならびに生活への関わり方を,一層成熟したと見なされる方向へ,再構成していく傾向がある.

ロジャースは,そうした傾向を,生活の主要動機であるとして,全てのサイコセラピーは,結局この傾向に依存しているとした.

そうした傾向とは,人間ならびに全ての有機体に見られる衝動(urge)-拡張し,伸張し,独立し,発達し,成熟したいという衝動であり,成長傾向,自己実現への衝動,前進的指向傾向などと呼ばれる-である.

そうした傾向は,普段は,心理的防衛機制の背後の真相に埋もれており,ただ,解放され表現される適当な条件を待っているとされる.

すなわち,人は,環境が整えば,自己実現を求める有機体の一種であるといえる.

③ セラピーの過程(②の詳しい説明)

ロジャースが論じる「あるタイプの関係において,変化の過程と人格の発達が起こる」ということについて,その過程と要素について論じる.

1.自己探索

①で,クライエントは,セラピストが受容し,理解してくれているということを少しでも知覚したとき,自己探索に乗り出している.

その探求の過程には,クライエントが見せかけの仮面を付けて防衛してきたことを追求していき,その背後に隠れている真実の感情,真実の人間から,このような仮面を区別することが含まれている.

このような究明によって,クライエントは次第に経験を分化していき,これまで意識から締め出してきたか,歪んだ形での見知り得たような感情を発見するようになる.

すなわち,クライエントは,自分自身についてもっている概念と一致しないがゆえに,無意識に追いやってしまった,いろいろの経験を見いだすのである.

自分がなぜ社会的な不適応にあるのか.それは本来は無意識化にあって自覚できないうちに生じるものである.しかし,自己探索の過程において,その原因となるものと,現在の自分の状態との関係を知り始めるのである.

2.自己洞察

そうした気づきが繰り返されるうちに,クライエントはやがて,これまで防衛されてきた自己の情緒的な面を,十分に経験し,意識してくるようになる.

こうなるとクライエントは,いかなる防衛をもうけることなく,自己に起こる感情をそのまま経験するのである.

この状態は,自分が今まで持ち続けてきた,様々なしがらみから解放された瞬間である.そのしがらみとは,社会的な因習であり,世間体であり,ある偏狭な価値観であるかもしれない.

そうしたとき,人は,その今まさにある感情に身をゆだねるのである.

3.自己一致

カウンセラーは,そうした状態にあるクライエントを,さらに受容し,それを経験させていかねばならない.

クライエントがやっとの思いで暴いていく自分のいろいろな姿-矛盾,弱さ,力強さ,異常な感情,優しい感情,悪意のある態度,反社会的行動,恐怖,絶望など-を,カウンセラーが全て同様に肯定的に受容してくれているということをクライエントが知るときに,彼は,「受容」を経験していくのである.

このような受容によって,クライエントは次第に愛されているという経験をする.それは,押しつけがましくなく,熱心すぎることもない.

こうした関係を経験することには,二つの意義がある.

  1. 一つは,クライエント自身の堅く防衛的な構造の自己概念をゆるめるようになり,感情を素直に受け止め,十分に経験することができるようになる.
  2. 二つ目は,自分に対していつも同じ態度を保てるように,カウンセラーの自分に対する態度を,次第に自分のものにし,それを自分の自己概念に組み入れていく.

そうすることで,自己評価が正当な基準のもとで行われ,自分を価値ある人間として尊重するようになっていくのである.

かくしてクライエントは,セラピーを経験することで見いだされた新しい自己によって,自分はこのような諸経験なのであり,自己は,経験の中に見いだされ,経験によって定義づけられるということを認識するようになる.

そういう認識は,クライエントが自己を行為の中で経験することにつながる.すなわち,主体性である.

クライエントは,カウンセラーとの関係の中で,あらゆる責任を負わされている.それは,カウンセラーの非指示によるものである.したがって,少なくともカウンセリングにおいては,クライエントは自己の責任で行為をしなければならない.

そして,自己責任を含めた再構成化が行われ,今や彼は他の責任ある選択もできるようになった.

そのため,選択の幅は広がり,選択の際の基準は,自分が自己実現,自己成長を促す方向にあると価値判断したものを,社会的な価値体系にとらわれずに選択することができるのである.

抑圧せずに,自分の喜びの感情が指し示すものを素直に追い求めていく.その責任は全て自分が負うということも,自ら受け入れていくことができる.

そしてそれは,自己成長的であるので,自己,他者に害をなすものとはなり得ない.

このようにして,不適応行動,神経症的行動は,新しい自己の新しい態度によって軽減している.

④ セラピーの結果

パーソナリティに明らかな変化が見られる.

クライエントは…

  1. よく統合され,うまく適応できるようになる.
  2. 健康で,よく機能の働く人間として行動するようになる.
  3. 自己を新しい面から見つめ,一層現実に即した仕方で見る.
  4. 次第に望んでいた自分に近づいてくる.
  5. 自己を一層,価値のある人間と考えるようになる.
  6. 一層,自己に自信を持ち,自己指示的になる.
  7. 自己を一層理解し,経験を抑圧しないようになってくる.

行動も当然,変化する.

  1. フラストレーション状態が減り,もし陥ってもすぐ回復する.
  2. 防衛的でなくなり,うまく適応でき,問題を創造的に解決できるようになってくる.

などである.

⑤ この仮説が人間関係について意味すること

このような関係は,セラピーとしてはもちろん,あらゆる人間関係にも当てはまるであろうことは,ここまでで明らかであろう.

すなわち,ある態度があれば,それに基づいて一定の変化が起こるというような人間関係について,以下のように要約できよう.

「もし私が,私の側に次の特徴を備えた関係を作り出すことができれば,(すなわち)私が,私の真実の感情であるという純粋さと透明さによって,他人を一人の個人として暖かく受容し,好きになることによって,彼と同じ見方で,彼の世界ならびに彼自身を敏感に見る能力によって,

そのとき,その他人は,その関係の中で,今まで抑圧してきた自己のいろいろな面を経験し,理解するようになるであろう.

次第に自己を統合し,より一層機能を効果的に発揮することができるようになるであろう.

彼がそうなりたいと思っていた人間に,一層近づいてくるであろう.

一層自己指示的になり,かつ自信を持ってくるであろう.

より一層一人の人間として,ユニークな人間になり,かつ自分を表現できるようになるであろう.

人生の諸問題に対して,より適切に,より楽しく対処できるようになるであろう.」

畠瀬稔編訳 1972(第8刷) ロージャズ全集6 人間関係論
畠瀬稔編訳 1972(第8刷) ロージャズ全集6 人間関係論 第一部「いかにして援助的関係をつくるか」 第一章「人間の問題に関するカウンセリングによる一考察」 岩崎学術出版社

お読みいただきありがとうございました。