ヘルシーモードの私であるために
マインドフルネスや自分への思いやり(セルフ・コンパッション)は,心を守ることで健康状態を向上させることができ,それによって「目の前にある現実と向き合うヘルシーな自分」を保つことにつながることが期待されるでしょう。
それでも、時にネガティブな思考が頭をよぎることもあるでしょう。それが心のクセだとしたら、そう簡単には修正できないかもしれません。
マインドフルネスやセルフ・コンパッションの効果をより高めていくためにも、意識的に自分を肯定的にとらえていく積極的な練習をしておくことも必要となるかもしれませんが、その方法論の一つが「解決構築セラピー」です。
まず,次の質問に対して想像をめぐらしてみましょう。
ミラクル・クエスチョン
少し奇妙な質問ですが・・・想像してみてください。
「今夜あなたが眠りついて,ぐっすり眠っていると,奇跡が起こって今の悩みや問題がすっきりと解決してしまいました。ただ,あなたはぐっすりと眠っているので,そのことにはまだ気づいていません。そして,朝になり,目が覚めた後,奇跡が起こって問題がすべて解決している,と気づく最初のきっかけは何でしょうか?」(問題が何もない,ということに気づく最初のきっかけです。)
そこから,その後の一日の生活を可能な限り具体的に,あたかも動画を眺めるかのように生き生きとシミュレーションしてみましょう。
そして続いて…
- いままで、いつもなら問題が起こるはずの状況なのに、それが起こらなかったこと(例外)はありますか?
yes
- それはどんなときですか?
- 何が役に立ったのでしょう?
- そういうときは、どんなことが違っていますか?
- もっと起こすには、どんなことをもっとするといいでしょう?
※ 役に立ったことを続けていきましょう。
no
- 問題が起こらないとしたら、今までとは何が違っているでしょう?
- 問題が起こらないとしたら、今までしていない、どんな違ったことをしているのでしょう?
※ 例外が起こりそうな条件を探しましょう。
…以上は,インスー・キム・バーグらによって開発された解決構築セラピー(解決志向アプローチ)の代表的なテクニックです。
趣旨としては,奇跡が起こった後,すなわち,問題がないとしたらどんな生活をしているのか,ということを事細かに想像することで(ミラクル・イメージ),それに近い生活を実現していくためのヒント(解決のかけら)を発見する,ということです。
重要なことは,奇跡が起こったからといって,なにも「ものすごいこと」は起こらない,ということです。奇跡はヘルシーな自分を変えてしまっていた「何か」がなくなった,ということであって,それはすなわち問題がなくなった後のヘルシーな普通の生活が戻ってきた,ということにほかなりません。
言い方を変えると、問題があるときというのは「ヘルシーモードの私」ではない、ということになるので、この場合の「ミラクル」とはヘルシーモードを取り戻す(あるいは構築していく)ために役立つ「行動上のヒント」を見つける、ということが目的です。
「奇跡」という非日常的な状況をイメージすることで「問題」から距離をとりやすくして、ほんの些細な「解決のかけら」に気づくことができれば、「ヘルシーモードの自分」を取り戻すきっかけになるかもしれません。そうすれば、この質問の目的は果たせます。
「問題」は我々の目の前に立ちはだかり、見通しをつかなくして、視野を狭め、勝手に大きく肥大していってしまう「想像の強敵」という面があります。
それをミラクル・クエスチョンによって客観的に自分の生活を「解決」という視点で眺めることで本来の大きさに戻すことができれば、それは自分の力で何とかできるレベルのものである可能性が高いのです。
一人で実践できる! 解決構築のヒント
もしかしたら、「そんな単純な遊びみたいなことに意味があるのだろうか?」 と思われるかもしれません。

ただ,人の考える仕組みは複雑ですが,実際単純な一面もあります。例えば・・・左の図を見て,何が見えるでしょうか?
これはグレゴリーという有名な心理学者の著書に載っている絵です。有名な図なのでご存じの方もおられるでしょう。
「何が見えますか?」と問われなければスルーするところかもしれませんが,問われればそこに「何か」を見ようとするかもしれません。
人の心は,何かを問われると、その問いに対して何か答えを見つけようとするものなのです。(もちろん,出てくる答えには個人差があります。)
上記のミラクル・クエスチョンは、まさに解決への答えを見つけてもらうための質問なのです。
これと同じように、「解決」に焦点化した質問をするという原理を用いれば、あらゆる応用が可能になります。
例えば、次のように自分に問いかけてみたとしたら,どんな答えが出てくるでしょうか?
何も答えが出なくてもそれはそれでOK。質問を「考える」ということが大切です。
- 私を思いやり,リラックスしてゆっくり進むとしたら,どんな違いがあるだろうか?
- ここまですでに実行した事,うまくいった事,よかったことを思いつくだけあげるとしたらどんなことだろうか?
- 助けを借りるとすれば,誰からどのような形で求めるだろうか?
- 実行可能で一番小さい,次の一歩は何だろうか?
- 私の長所をどんなことでも10個以上あげるとしたらどうなるだろう?
- よく頑張ったことで私をほめてあげるとしたら何だろう?
- 「本当は今これをした方がよいだろう」と知っていることがあるとしたら,それは何だろう?
- 私が想像し得る最高の展開とはどのようなものだろう?
- 上手くいくという自信を深めるために,今私にできることは何だろう?
- 「わー,私にもこんなことができるんだぁ!」とびっくりするようなことを近いうちにやるとします。さてそれはどんなことだろう?
- 問題が解決されたときに私がしていることに少しでも近いことで、これまですでに行ってきていることはどんなことだろう?
(青木安輝 「ソリューション・カード」 を参考)
以上は自分との「肯定的な対話」になります。自分との肯定的な対話は自己効力感(セルフ・エフィカシー)を向上させ、ストレスを弱めることに一役買ってくれるでしょう。
ストレス状況や困難に際してぜひ思い出してみていただき、自分に対して解決に焦点化した質問を問いかけてみていただきたいと思います。
参考文献
専門書です。解決構築セラピーの原典といえる一冊です。
一般書です。セルフケア的な応用の仕方について参考になるでしょう。
解決構築の組織マネジメントへの活かし方についての解説です。割と初心者向けかも。