思考のクセ
うつ病などの心の病には背景に自己否定的な思考が多くみられることをよく経験します。ネガティブ思考,マイナス思考とよく言われますが,たいてい事実に基づかない「思い込み」によるところから,「認知のゆがみ」とも言われます。
たとえば,「自分[だけ]は〔いつも]失敗する。」「自分は[すべてが]だめだ」というように,やたらと極端に考え,根拠もなく自分を責めたり,否定したりする考え方の「クセ」です。
ポジティブ思考とネガティブ思考
言い方を変えると,認知のゆがみは事実とは異なる偏った思い込みであることが多いです。それを事実に基づいて「公平」に考え,バランスをとるようにすることで,気分の揺れ動きを落ち着かせる方法があります(認知療法)。とても効果的な方法で,それで認知のゆがみが徐々に修正されてくことも多いです。その一方,もともと持っている思考のクセは頑固なので,一生懸命,ネガティブな方へと引っ張っていこうとして,ネガティブ思考とポジティブ思考の綱引きが始まってしまうことがあります。ネガティブ思考とポジティブ思考では,一般的にネガティブの方が強いと経験的に考えられます。そして,ネガティブが勝ってしまうと,ますますネガティブの方が強まってしまう,という弊害も指摘されています。
なぜ,ネガティブのベクトルが強いかというと,それは,まぎれもなく,今までの(過去の)「自分」だからです。ネガティブな思考が理不尽であることは理解していて,ポジティブにベクトルをとろうとしても,過去の自分によってポジティブに方向転換することが妨げられるのです。
そのままベクトルが逆方向だと,ポジティブに引っ張ろうとしても,ネガティブを引きずることになり,余分なエネルギーを必要とします。
そこで考え方を変えてみましょう。
引っ張り合うことやめるのです。自分のネガティブ思考に受容・共感を示し,折り合いをつけてネガティブ思考と協働することができたとしたらどうでしょう。少なくとも,引っ張り合うことはなくなるでしょう。
ネガティブ思考に働きかけるのは,中立なもう一人のあなたです。「ポジティブ思考のあなた」ではなく,あくまで,両者を仲裁する立場として,両者を俯瞰してみるあなたです。
自己受容と自分への思いやり
苦しみに際して,
「今は苦しい時だね。」
「これも人なら誰もが経験する人生の一部だよ。」
「だから自分を思いやって優しくしよう。」
「私はできるだけ,自分を許そうと思う。」
※(参考) ネフ C. 石村・樫村(訳) 2014 「セルフ・コンパッション」 金剛出版
と優しい気持ちで,自分に対して語り掛けてみます。
このように,ネガティブな自分を受容・共感し,いたわりながら今あるネガティブ思考を受け入れ,認め,慰め,ねぎらってあげることで何が起こるか,まずは観察してみるといいです。
そうすることで,例えば「私は失敗することもあるが,成功していることも多い。」「こんなダメな所もあるが,こんないい所もある。」のような自己肯定的な思考につながり,心の健康に寄与することになるかもしれません。
ネガティブであることを「肯定」しよう
そもそも,「ネガティブなあなた」は,何も悪くないのです。もしかしたら,あなたの思考は,何か家族関係的な環境要因で育まれたものかもしれませんし,遺伝的なものかもしれませんし,特別な出来事によって条件反射のようにしみついてしまった単なる思い込みかもしれません。
いずれにしても,あなたを苦しめるネガティブ思考は,一日に数万に及ぶと言われる「思考」の一つに過ぎないので,それ自体,何も悪くないのです。もちろん,そう考えるあなたも何も悪くありません。
どんな思考も感情も,まぎれもない,あなたの一部です。それを否定することは,あなた自身を否定することですから,つらいものです。
辛さやしんどさから脱却するには,その考え,そしてそれを考えている自分の隣に,そっと座ってみましょう。そして,「しんどいけど,一緒に進もう」,とやさしく語りかけてみましょう。