カウンセリング(または心理療法)も、治療とそれによる効果の実証性が重要視されるようになってきました。
心理療法の世界にはいわゆるスタンダードと呼べるようなものがなく、臨床家によって、同じ症状であってもとる方法が違うなど、”あやふやな”心理療法が横行してきました。
そんな現状を変え、「どこで受けても同じ治療」をめざした多くの研究が積み重ねられています。
「こんな症状にこんな方法を使ったら、どの程度良くなった。」ということがキッチリ予測できるようにしようということですね。
私も、実証性を重んじる心理療法を学び、実践しています。
しかし、それはそれとして、次のようにも思います。
”心理療法には実証性と「芸術性」が必要” だと。
言い換えれば、
”心理療法は科学であると同時に芸術である” ということでしょうか。一見相容れない二つのものが同時に存在していると。
先の記事では「音楽療法」について簡単に書きましたが、芸術を使った心理療法は他にもたくさんあります。例えば・・・「箱庭療法」「コラージュ療法」「描画法」「絵画療法」など。
しかし、そうした技法ということではなく、なんと言いましょうか、クライエントさんの心情を理解するところ(カウンセリングの世界では”受容・共感・自己一致”などというロジャースの3条件が有名ですが)に、芸術的なセンスがいるのです。
私の師匠いわく ”詩人になれ” ・・・
非常に含蓄のある言葉でどうもピンときませんでしたが、臨床歴を重ねたいまは実感しています。
私なりに言い換えれば、 ”(詩に限らず)アーティストになれ” ということでしょうか。もっとも、心理療法は普通「言葉」を使うので、”詩人”は最も適していると思います。
こうしたアートがどのように、心理療法に役に立つのでしょうか?その前に・・・何故、人はアートで感動するのでしょうか?感動しないまでも、何か心を動かされるのでしょうか?
科学的ではありませんが、一つの回答はいわゆる”ニューサイエンス”の中でなされています。その作品の作者(アーティスト)の、作品に込めた「心情」が、時空を超えて、それを経験している人の心とシンクロするからだ・・・と。
これは少し荒唐無稽かもしれません。しかし、こう考えてみてはどうでしょう。
芸術作品というものは、ある意味、作者の心情の象徴と言えるわけです。作者の心情が閉じこめられた具象物なわけですね。そこに込められた心情は、(壊れない限りに於いて)時空を超えることが出来ます。ルーブル美術館で「モナリザ」を観れば、ルネサンスの時代にダ・ヴィンチの込めた心情に触れることが出来るわけです。
そこから何かを”感じる”ことが出来れば、それは時空を超えてダ・ヴィンチとシンクロしたという見方も出来ないではないかもしれません。もっとも実際”シンクロ”できたかどうかは、確かめようがありませんが・・・。
ともあれ、今実感していることは、「クライエントさんにシンクロすること」こそが心理療法の第一歩なのであろうということ。
それは、科学や論理的思考ではなく、芸術的な直観により近いものであるということ。
そして、それと共に、実証的な方法を用いること。それでこそ、心理療法は効果をあげうるということ。優れた心理療法家はおしなべて、こうした科学と芸術の両側面を持っているということ。
きざな言い方をすれば,カウンセリングとは,カウンセラーとクライエントさんとで「ダンスを踊る」ということでしょうか。
お読みいただきありがとうございました。