マインドフルネスの理論 ~気功編~

マインドフルネス
マインドフルネスには「ヒーリング・スポット」がよく似合います。 (日本屈指のヒーリングスポット「須佐神社」)

こんにちは。マインドフルカウンセラーの小村です。

私のマインドフルネス原体験は,「気功」です。

これから始める方はヨーガから入る方が多いのではと思いますが,前の記事でも書きましたように,マインドフルネスの心があれば,さまざまなエクササイズがマインドフルネスを育てる手段として用いることができると思います。

手前みそになりますが,私自身は「気功」を長くやっていたこともあり,また,気功の練習法や多様なスタイルから考えても,むしろ,ヨーガよりも優れた側面も多いのではと考えています。

そもそも,大学入学と同時に本格的に気功を始めましたが,大学院博士課程の時に,気功の心身医学的な応用への可能性について学会で発表したこともあります。

発表プログラム集の表紙

残念ながら,その発表抄録は電子化されていないようなので,リンクを張ることができないのですが,ここにその際の抄録を少し改変して掲載してみたいと思います。

学会発表の抄録が元なので,少し専門的かもしれませんし,まだ「マインドフルネス」が知られる以前のことなので,「マインドフルネス」というキーワードは使っていないのですが,論点としては,現在のマインドフルネスについて論じています。

では,どうぞ

気功とバイオフィードバックとの関係(第16回日本人間性心理学会,1997)

序論

身体の活動は筋肉の伸縮によるので,筋肉は必然的に緊張と弛緩を繰り返す。したがって,人が生活し,行動している限り,筋肉の緊張から逃れることはできないだろう。

また,人の精神活動は,身体的活動として表出されるという点で,常に体に影響を与えている。このような心理活動によってもたらされる意図的な身体の緊張は,人間(生物)の生存にとって当然のことながら必要不可欠である。

ところが,不必要に,あるいは無意識的に生じる身体の緊張も存在する。それは,現代のようなストレス社会の中で生活するうえで避けては通れない様々な精神的・身体的負荷による「ストレス」によってもたらされる。

心身医学では,身体の不調を内科的問題としてだけでなく,それに関与する心理過程の問題としてとらえるため,神経生理学や運動生理学,そして心理学など多様な側面を含んでいる。

また,ライフスタイルの多様化に伴う不規則な生活スタイルなどの社会的要因によって,心身のバランスを崩しがちな人も多い。このような心理社会的側面によって生じる自律神経失調状態に代表される心身のバランスの乱れによる不調に対し,心と身体の相互関係の調整を行うための技法として,自律訓練法やバイオフィードバック訓練,筋弛緩法などの心身医学的療法が適用され,効果を上げてきている。

いずれも,原理としては古典的な心理学の条件付けのプロセスが関与しているが,身体的動作と心理的プロセスの統制によって身体的な変化を起こさせ,それを認識していく過程で心身の統一を図るというのが基本原理であると思われる。

ところで,上で例示したような心身医学的療法の要素をすべて含み,かつそれの原型となったように思える方法が東洋では伝統的に存在する。

インドの原始仏教に起源があるヨーガや瞑想,日本における「禅」などがそれであるが,なかでも,中国に発祥する「気功」は中国においては広く医療に応用されている。本邦においてもこれら東洋的行法を心身医療の現場に応用する試みはなされているようであるが,ここでは,気功の医療的意味を,心理学的または工学的に定量的に測定されうる指標として脳波,皮膚温等を用いたバイオフィードバック訓練と関連させて論じることによって,気功の有効性について考察してみたい。

気功について

気功とは,呼吸法,イメージ,規則的運動などによって,身体に巡る気を練る訓練法である。気功は,大きくわけて,武術的な要素をが大きい「硬気功」,健康法的な要素が大きい「軟気功」に分けられる。ここでは,一般的な健康法としての医療気功について述べたい。したがって,気功とは中国に起源をもつ内的養生法を意味する。この際,「内的」とは「心理的」と「身体的」の両面を示す。

一口に気功といっても,実に多種多様である。現在知られているだけでも数限りなくあり,すべてを網羅することは困難である。

ただ,一般に気功の目的・機能として,

  1. 身体的なリラクセーション感覚を覚えること。
  2. 気功実施中に感じられる感覚である「気感」をえること。

以上の2点が指摘される。

1.リラクセーション感覚とは,身体的における過度な緊張から解放され,ほどよく弛緩した状態を維持し,それによって心理的な安定感を得ている状態と言える。

2.「気感」とは,聞きなれない言葉ではあるが,熱感,涼感,痺れる感覚,ムズムズする感覚などが示されているが,あくまで感覚であり,主観的な体験ともいえる。(ちなみに,同様の感覚を自律訓練法では自律性解放と呼んでいる)

上記の目的を達成するため,気功には大別して

  1. 身体的な動作を伴う「動功」
  2. 静止状態を維持する「静功」

以上,二通りの技法が存在している。

1.動作を伴う事により運動生理学的な効果によりリラクセーション効果や心理的安定などの効果を得やすい。

2.静止状態で意識を集中することにより,身体に生じる微細な感覚にも気づきやすい。

順序としてまず初学の内に「動功」によって身体的リラクセーション感覚を体得し,後に,例えば「站椿功」と呼ばれる「静功」を行って気感を得る訓練を行うのがよいようであるが,これらは相補的であるため,適宜両者の使い分けが求められる。

気功実施時には,呼吸や姿勢など様々な留意点があり,時間をかけてじっくりと「練る」必要がある。特に,「呼吸法」は重要視され,深いゆっくりとした呼吸法が要求される。

姿勢もまた重要であり,站椿功も見た目にはただ立っているだけのようであるが,実際にはいくつもの要訣(決まり事)が存在している。

そして,「意念」すなわち「意識の集中」によって,呼吸,姿勢を束ね,統一していくことが必要である。

「気」とはなにか?

上記の通り,気功を行うことによって,呼吸や動作がもたらす生理学的効果として自律神経系の調整による自己コントロール力の増進という身体的意味のほか,身体を意識の中で今そこにある体験としてとらえ,それをもって調和した自己として認識するという心理的な意味があると思われる。

上記のような心身の全体的な統一を図るプロセスにおいて必要な「注意の集中」というという心理的努力が行われると,そこに,普段とは異なる感覚知覚能力への感受性の高まりが想定される。

普段我々は,身体の特定の部位に生じる感覚を,そこに注意を向けることによって主観的体験として感じ取っているが,さらに能動的に注意を集中することにより,その感受性は飛躍的に向上するのではなかろうか。

その際,皮膚感覚だけでなく,身体内部に向けることにより,普段なら意識しない内臓的感覚をも,敏感に感じ取ることができるのかもしれない。

そうした,普段は感じられないレベルの感覚を,注意集中によって下がった感覚閾によって敏感に体験できた微細な感覚が,従来「気」と呼ばれる感覚的体験ではなかろうか。

津村(1990)は,

「気は,物質と非物質の中間メディア」

(津村喬,1990. 気功=心の森を育てる 新泉社)

と述べている。

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そもそも「気」とは何か? という点を上記の考え方にしたがって整理していくと,

  1. 「気」を物質すなわち,何らかの物理現象としてとらえた見方
  2. 非物質すなわち,注意の集中によってもたらされる心理物理学的現象としてとらえた見方

の二通りが想定される。

「気」の発生には注意集中というプロセスが必要であることを考えると,注意集中という心理的プロセスが身体に対して計測可能な神経生理学的変化を引き起こすことから,その間を媒介するプロセスとして「気」を概念化することができる。つまり,心と身体のつながりを意識化させるメディアとして知覚されるのが,「気」という体験ではなかろうか。

言い方を変えると,「気」とは,何か特定のプロセスの結果生じる「何か」ではなく,意識の注意集中とそれによる心身の統一というウェルネスに指向した状態をもたらすための「方法」または「道具」そのものとしてとらえられよう。

すなわち,「気功」は「気」という概念を使って心身統一を果たすことで健康をもたらすためのボディワーク,エクササイズの一つであるということである。

したがって,「気功」においてはそれを「気」と表現しているだけであるので,ほかのボディワーク,エクササイズでは,異なる表現となっても何も問題ないと言えよう。

バイオフィードバックについて

さて,バイオフィードバックとは,「我々があまり意識しない身体面からの情報を,工学的な情報の助けによって,本人に知覚させ,その身体の局部的反応を制御させようとする訓練法である。(藤田,1993)。」

また,「バイオフィードバックとは,従来随意的にはコントロールできなかった生体活動を随意的にコントロールできるようになるために体外に工学装置を付け加えて体内活動に関する情報を顕在化させ,これを用いて自己訓練を行うことによりその能力獲得を目指すことを目標としている。(西村1992)」

といった定義がなされている。

いずれにしても,バイオフィードバックとは,意識しない内臓機能や呼吸,筋緊張,動作,脳波,皮膚の電気的抵抗の変化,皮膚感覚などの情報を工学的な装置によって視覚または聴覚的な刺激量に変換して呈示することによって生体に情報を与え,その時々の身体感覚とフィードバック情報との一致によって不随意活動を随意的にコントロールできるようにしようという方法であるとまとめられる。

気功のバイオフィードバック的解釈

 気功には,前述の通り,身体の適度な動作や注意集中によって心身のコントロール機能を回復・増進させる機能があり,それは身体のリラックスの程度を身体の微細な感覚である気感によって感受することによって形成されたフィードバックによるところが大きいのではないだろうか。

つまり,気功は工学的装置というメディアを用いないという点を除けば,不随意活動(身体的過緊張)を随意的にコントロール(リラクセーション)するための訓練という点でバイオフィードバックと類似している。

したがって,気功は,工学的装置の代わりに身体的感覚をフィードバックすることによる,優れたバイオフィードバック訓練といえるのではないかと考えられる。

バイオフィードバック訓練は,脳波や皮膚温などの生体反応を工学的にフィードバックすることにより,心身症などの臨床的治療に応用されてきた。

しかし,バイオフィードバック訓練と気功が同等の効果を持つものであれば,古来から自然哲学の基盤のもとに培われてきた英知ともいうべき気功を応用することは,人の健康を心と身体,そしてスピリチュアリティの観点からとらえた時に,誠に健全であり,汎用性も高いと考えられる。

とはいうものの,対象者によっては従来のバイオフィードバック訓練の方が適切である場合も当然予想されるので,気功が万能とは言えないだろう。

同時にそれは,気功を指導する指導者や,訓練期間の問題もあり,臨床治療としては困難な状況も予想される。しかし,心身治療または一般的健康法として,その有効性から気功が広く応用されていくことの意義は大きい。

まとめ

このように,気功,禅・ヨーガをはじめとする東洋的行法は,人のウェル・ビーイングを論じるうえで,今後,心理学や医学をはじめとして,様々な分野において重要な位置を占めていくように思われる。

それは,昨今注目されつつある「スピリチュアリティ」意識の高まりに伴いますます広がっていくであろう。

合理性や経済効率を重視する現代社会において,ヒューマニスティックでスピリチュアルな実践的修養法を検討することがますます要求されるであろう。

今後の課題

本論では,気功の壮健作用について客観性を与えるために,すでにその方法論が確立されているバイオフィードバック法と関連させて論じたが,自律訓練法や筋弛緩法などとも重なる点が多く,これらについても論考が必要であろう。

それらと気功をリンクさせて論じることで,その性質ゆえ個人の主観的体験にとどまりやすい気功について,質問紙などにより客観性持って評価し,その有効性にエビデンスを与える過程が,今後の気功,ひいては東洋的行法の全般的普及と発展に必要であると思われる。

今後は気功による意識変容・効果機序をより具体的に記述し,心身医療の現場でエビデンス・ベースドに活用できるような資料を収集したいと思う。

以上


原稿そのままだと恥ずかしいのでかなり手を入れました。

書き直していることで,さらに「気功」と「マインドフルネス」の関連について確信を持てましたし,マインドフルネスの心への作用機序についても新たなアイディアが出ました。

それについてはまた書きたいと思います。

今回もお読みいただきありがとうございました。

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