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カウンセリングオフィス広島心理教育研究所

人はなぜ物事を先送りにするのか

先送りグセとは

例えば,夏休みなどの長期休み,といえば、みなさん、どのようにイメージされますか?

私の場合はただ遊びほうけた40日だったように思います。それなのに、覚えているのは、新学期を控えてたまった宿題を、母に叱られながらやっている、というあまりいい思い出ではありません。これも先送りグセが起こす弊害の一つですネ。

休み前は、学校からも親からも、口を酸っぱくして、「計画的に宿題をやりましょう」「朝の涼しい時に勉強しましょう」と言われていたことも覚えていますが、ことが計画通りに進んだ記憶はほとんどないです。

ただ、そうすることがいいことだということはよくわかっていたはずです。そうして、休みが明ける数日前には、「やるべきこと」が山積みで、それまでの楽しい生活がちゃらになるような苦痛を味わう羽目になっていたのですね。

思えば、それは小学生から高校生まではては大学生になっても延々と続いていた「悪いクセ」だったように思います。

そうした悪い癖の背景には何があるのか、考えてみますと、それはやはり「こだわり」という「考え方のクセ」というべきものと思います。

私は、テストも「初めからやらないと気がすまない」ほうでした。テストのテクニックとしては、分かるところからやっていく、難しい問題は後回し、ということも知ってはいても、なぜか初めから解かないと気がすまない方で、結局最後になって、簡単な問題を追い込まれた状態で解く羽目になっていました。

このように、「順番にしないと気が済まないクセ」は、結局、やるべきことをただ後回しにしてしまう、という先送りグセにつながってしまうようです。

「こだわり」とは、「そうすべき」とか「そうでないとダメ」とか結局、かなり窮屈な自分を追い込むような考え方といっていいでしょう。

ただ、すべき、と考えると、それはかなりハードなプレッシャーを自分にかけることになってしまい、プレッシャーは強い緊張を生み出し、不安な気持ちになってしまいます。そうすると、人は、その不安を解消しようという方向への強い動機付けに従った行動をとりやすくなるのでしょうね。

だから、わかってはいても、ついゲームやテレビ、外遊びなどのプレッシャーを避ける行動を優先させてしまう結果が「先送り」という行動のパターンにつながるのかもしれません。

結局、先送りグセの本質は、生真面目な人が持つ「こだわり」の結果と考えると、そのために「なまけもの」とか「物事が遅い人」のようにレッテルを貼られかねなということを考えると、とても損をしていることになります。

こうした人々が持ちがちなのは、目標のハードルを高く持ちすぎることです。そのせいで、頑張ってもなかなか越えられないハードルを自分に課してしまい、そこに向かっていく動機付けが上がっていかない、ということも先送りの一因といえますね。

同時に、ハードルを越えたあとの「達成感」という充実した感情を実感できないという、これまでの成功体験の少なさも影響していると思われます。

こうした状況を打破して、やることをやる、計画的にやる、そして、余裕を持って物事を遂行できるようになることは、自分の殻を破って、ブラッシュアップすることにつながるでしょう。

こころの不調につながる先送り

ところで,うつや不安が強い人の特徴の一つとしても,この「先送りグセ」があります。

うつや不安が強いから先送りにしてしまうのか、先送りにするからうつや不安が強くなるのか、その因果関係はわかりませんが、関連性があるのは確かであり、おそらく両者の相互作用によって、ますますその傾向が強まるのだと考えています

もっとも、前項の通り,日常的にいやなことを避けたり、先送りにしたりすることは誰しもあることです。

ただ、その傾向が強くなりすぎると、心理的に切迫してきて余裕がなくなり、心のエネルギーが奪われていってしまいます。

また、うつや不安が強い人特徴のもう一つとして、「喜び」を見出しにくい、ということが挙げられます。

物事に対しての「評価」であったり「価値のつけ方」がマイナス方向へやたらと傾いている状態です。

うつの人は自分の過去を責め、そして未来にも希望が持てなくなっていますし、不安が強い人はまだ見ぬ未来にあらぬネガティブな予想をして汲々としている状態です。

こうした場合、とり得る行動は「不安」や「悪い予想」を回避すること、阻止することに動機付けられているので、それによって得られる成果は、「何も起こらなくてよかった。」という安堵感です。

行動によって結果的に安心が得られれば、それはそれでいいのですが、安心を得ることで「不安」が一時的になくなりますので、行動への動機づけが著しく低下することになります。

言い換えますと、不安や心配に追われて行う行動は、安心を得ることによって満たされてしまうと、そこで終了してしまいます。

そして、その安心が足りなくなってくると、今度は猛烈にそれが欲しくなってしまって不安にさいなまれ、同じことの繰り返しになる、ということです。

これは、マズローの欲求階層説における欠乏欲求の特徴ですね。

例えば、食事をしてお腹がいっぱいになると、目の前にどんなに美味しいものがあっても食べようという気が起こりませんが、お腹が減っているときは、少々味が悪いものでも食べようとしますよね。

欠乏欲求は、満たされると「飽き」てしまい、足りなくなる(「遮断」される)ことによって猛烈に求める、という特徴があります。

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先送りのクセは、こうした、欠乏欲求によって行動をコントロールしている(されている)ということの表れです。

締切が近づいて来る(不安が強くなってくる)と、それを回避しようとして、やっと行動を起こすようになり、何とかやっつけ仕事でも終わらせると、「安心」が得られるので、そこで「ホッ」として仕事に「飽き」てしまうということになります。

そこで「喜び」や「満足感」は得られるでしょうけど、あくまでそれは二次的なものであって、本質的には「悪い事が起こらなくてよかった」という後ろ向きの安堵感です。

これで、何とかこなせているうちはいいのですが…、多重ストレッサーや突発的な出来事などがおこると、「こなせない」状況が出てきます。

そこで、行動が「欠乏欲求」に制御されないように、ただ満たされる、ことだけを目的にしない、「成長欲求」に基づく行動を増やしていけると、行動が「達成された喜び」や「充実感」に動機付けられる前向きの「達成動機づけ」に制御されるようになります。

「やらなかったらどうなるか」ということより『やったらどうなるか』ということに行動が動機付けられると、人って、とても元気になりますよね。

先送りグセの処方箋

そこで,先送りグセの処方箋を、いくつかご紹介いたします。

先延ばし解決法(Burns,1980)

1.本末転倒しない(まず行動)

モチベーションが高まるまで待たずに、まずはじめることです。アクションが先で、モチベーションは二の次です。

2.具体的プランを作る(プランを「書く」)

いつか手をつけることにしよう、と自分に言う代わりに、具体的プランを作ります。もし今日はじめるのであれば、何時からはじめますか? 最初に何から始めますか?

3.作業は簡単に(15分アタック)

全部いちどきに片付けてしまうつもり、と自分に言う代わりに、10~15分だけ作業にかかることにします。作業を小さなステップに分け、今日は最初の小さなステップだけやればよいのだと自分に言い聞かせます。

15分経過後は、安心して作業を終えるか、さらに作業を続けます。しかし、最初の小さなステップが、あなたにとってその日の大きな手柄です。

4.前向きに考える(前向き思考法)

あなたは、彼らの罪悪感と不安で悩ます否定的思考を書き出し、より前向きで現実的な思考で置き換えます。

5.自分をほめる(小さい成長を見つける)

あなたは、達成しなかったことを考えるのではなく、達成したことについて自分をほめてあげます。

4.は少し具体的なご説明がいりますが、ほかのものはすぐにでもできることだと思います。

とりあえず、「15分だけ」やってみましょう。

 

お読みいただきありがとうございました。

あなたのお宝が見つかりますように。

 広島心理教育研究所 メンタルヘルス相談室Cachette

【参考書籍】デビッド・バーンズ著 「いやな気分よさようなら」 星和書店