こんにちは。マインドフルカウンセラーの小村です。
近年,話題になることの多いマインドフルネスですが,取り組んでいる方,取り組みたい方も多いのではないでしょうか。
実践の仕方については,多くの書籍や動画などが配信され,百花繚乱,玉石混交ではないかと思います。
小村は公認心理師・臨床心理士でもあり,マインドフルネスを医療や心理的援助という視点で学習,利用していますが,現在流行しているマインドフルネスはむしろ,自己啓発や能力開発という側面が強調されているところもあり,(もちろんそういう側面もありますが),何か本質が見えにくくなってきている印象もあります。
マインドフルネスの整理
そこで,まずはマインドフルネスを整理するところから始めてみたいと思います。
ちなみに,マインドフルネス(mindfulness)を辞書で調べてみると,意味は「注意深さ」とか「細心の注意を払う」というようなことが書いてあります。
つまり,「注意」というのが一つのキーワードですね。
まずは,ジョン・カバットジン博士による,「マインドフルネスストレス低減法 北大路書房」を,少し長くなりますが引用しながら,整理していきます。
「マインドフルネス」の実質的な起源と言えるのではないでしょうか。必読の書です。 |
「マインドフルネス瞑想法」というのは,「今」という瞬間に完全に注意を集中するという方法です。これは,仏教における瞑想の中核といわれており,禅宗をはじめとして,その他の仏教宗派でも非常に重んじられているものです。
(ジョン・カバットジン,2007,「マインドフルネスストレス低減法」 北大路書房 pⅺ.)
瞑想・禅という手段を通じ,「今,という瞬間に完全に注意を集中すること」が目的であることがうかがえます。また,
「マインドフルネス瞑想法」は,”注意集中力”を高めるためのトレーニングを体系的に組み立てたものです。・・・ ”一つ一つの瞬間に注意を向ける” という単純な方法です。
(ジョン・カバットジン,2007,「マインドフルネスストレス低減法」 北大路書房 p2-3.)
この注意集中力を体系的に養成するという方法は,・・・二千五百年前から僧侶だけでなく広く一般的にも行われてきたものです。
(ジョン・カバットジン,2007,「マインドフルネスストレス低減法」 北大路書房 p18.)
そして,
一般的には瞑想はあくまで仏教の枠組みの中でとらえられていますが,その本質は宗教を超えた普遍的なものです。注意を集中するというのも,基本的には自分の内部を深く見つめて,自分を探求し,自分を理解するための方法なのです。・・・注意集中力の持つ力は,あらゆる宗教やイデオロギーに依存せず,誰でもその恩恵を受けることができるわけです。
(ジョン・カバットジン,2007,「マインドフルネスストレス低減法」 北大路書房 p18-19.)
以上から,マインドフルネスとは,一つ一つの瞬間に注意を向けるための方法として,アジアにルーツを持つ瞑想・禅を基本とすることは変わりませんが,治療・予防プログラムとして一般化するために,瞑想(禅)に含まれるエッセンスとして「注意集中」を抽出することで,瞑想や禅がもつ宗教的な意味・目的から距離をとり,普遍的で一般性の高い技法として概念化することに成功したものと言えそうです。
現在のマインドフルネスの興隆には,以上のようなジョン・カバットジン博士の先駆的な研究・実践という偉業によるところが大きいのですね。
マインドフルネスとは「注意集中」
注意集中とは,心理学においては認知心理学における情報処理過程(心的プロセス)を説明する際に扱われる概念でもあり,人の心の在り方を一般化する基礎理論でもあります。
一般に人は,環境にある刺激のなかの特定のものに選択的に注意を向けることができます。それは能動的で意識的であると同時に,受動的で無意識的な側面も持ち合わせていて,それが人の刺激への反応を決定づける要素になっています。
例えば,道を歩いていると,道端に咲くスミレに,気が付いたら意識が向いている(受動的な注意),という経験がある方も多いでしょう。そして,「あ,こんなところにも咲いているんだな。けなげだな。」と,何気ない感想が生じることに気づくこともあるでしょう。
一方,あえてスミレを見つけようと目を見張らせながら道を歩けば,きっとより多くのスミレを見つけることができ(能動的な注意),「また次も見られるといいな。もっとたくさんスミレを見つけるぞ。」と前向きな意識を持つこともあるでしょう。
全く偶然に,スミレに目が向くこともあるでしょうけど,スミレに対しての意識を高めておけば,より多くのスミレを見つけることができ,そのけなげな美しさに感動する機会も増えるはずです。
「今,この瞬間への気づき」こそがマインドフルネス
偶然スミレを見つけるのも,能動的に見つけるのも,どちらもその瞬間は「マインドフルネス」になっています。まさに,「今,この瞬間。」に目が向いた瞬間です。
その瞬間,すなわちスミレに対してのような注意集中を,常に自分の自発的な意志により,特定の目的に沿ってコントローラブルに起こすために,瞑想(禅)にのっとった訓練法が適している,ということになりそうです。
注意集中を目的とすることにより,マインドフルネスは,「悟り」や「宇宙との融合」というような全体的意識を目指す瞑想や禅といった科学とは縁遠いような宗教的枠組みから,サイエンティフィックな枠組みでとらえられる現代的な技法によって得られる日常的な心の平穏へとリメイクすることができたといえるでしょう。
まずは「その瞬間への注意集中(=マインドフルネス)」とそれを涵養する(ゆっくり育てる)ための方法としての瞑想(禅)という理解,そして何よりもその「実践」が必要なようです。
今回もお読みいただきありがとうございました。